うるさいほどの静けさ

主に聴いた曲について書いていきます。B'zのレビューは休止。更新超不定期です。

【★★+】

B'zの中で最も好きな曲。ここ2年ほど変わっていない。

The 7th Blues』16曲目。

ライブ演奏は1994年『The 9th Blues』、2007年『B'z SHOECASE 2007』の過去二回。

ファン投票により『B'z The Best "ULTRA Treasure"』にも収録。B'z史上最高峰の大名曲。

 

もう擦り切れるほど聴いた曲のはずなのだが、未だに聴いていてゾクゾクする。

曲の完成度もさることながら、歌詞も間違いなく最高峰だろう。

 

「春」という言葉にどのようなイメージがあるだろうか。陽気で、暖かくて、どことなく地に足がつかないような気分になる季節。多くの方がそのようなイメージをお持ちだろう。

この曲にはそんなイメージは一切ない。

それ以前にタイトルが「春」のくせに舞台がである。羊頭狗肉も良いところである。

 

最初にサウンド面の流れから追ってみていきたい。

開幕の不穏なギターから、AメロからBメロに渡って鳴り続けるこれまた不穏なシンセ。そこから視界が開ける様に、しかし流れはそのままにサビへと。2番からはA,Bメロにドラムが入る。

2番のサビが終わったあと、ティンパニからギターソロへ。このギターソロも完成度が高いので是非じっくり聴いてみてほしい。

そしてこの曲のサウンド面に関して特筆すべきは

「ギターソロ後からラストサビまでの流れ」だ。

ソロで魅せた後、曲の序盤に見られる静かなサウンド、そしてラストサビへの盛り上がり。さらに畳み掛けるようにアウトロの圧巻のギター。締めにはTAKの十八番「泣き」のギター。

ここの細かい説明をどのように書こうか数日悩んだのだが、どうやら私の説明できる範疇を超えているようだ。

恐らくこのレビューを見てる方はほぼ全員この曲を聴かれたことがある筈だが、この機会にこの流れを意識しながらもう1度聴いてみて欲しい。

 

次に歌詞。

私にしては珍しく、歌詞全てを細かく解釈していきたい。

 

"奪う勇気を捨てた者たちは 寄り添うこともなくにわかに夜は消えた"

英詞では比較的よく見られるが、結論から先に出すという手法を取っている。そして稲葉浩志お得意のテーマ「不倫」。

 

この歌詞のポイントとして、

男の心情と女の行動が同時に描かれているのが特徴だ。

実際に見ていきたいと思う。

 

"偽りのない優しさだけを見せる君の支度は終わり 少しだけ春が近づいてる気配はするけれど"

主人公と女の不倫もいつかは終わりが訪れる。

その時が遂にやってきた。女は荷物をまとめ、家を出る準備を終える。それが女にとっての「春」の始まりを意味するのかもしれない。が、主人公にとってはどうなのだろう。

 

"なにも言えないで過ぎてゆく君の影を見送るだけ あう度つぼみは焦かれてく 哀しいほど熱をはらみ"

女が去ってしまうことを知った主人公は、女にあう度自分にとっての「春」が遠くへ行ってしまうような気になっていた。同時に、それは女への情熱が増し始めたということ。今では女は自分の目の前で小さくなっていくだけ。

 

"白く長い指 誰かも誉めていた 何度かその手を振って君は路地を曲がる"

この時の「誰か」とは、私の勝手な想像だが女の夫ではないだろうか、と思う。

女はその誉めてくれる「誰か」の元へ帰っていってしまう。路地を曲がれば女の姿は見えなくなる。

 

"口を開ければ綺麗好きな言葉が本音の邪魔をする たかが恋なのにいつからこんな臆病になったの"

女の姿が見えなくなる前に、主人公は最後になるであろう言葉をかけようとする。しかし口から出てくるのは「綺麗好きな言葉」だけ。本当に言いたいことは別にあるというのに。

主人公は異性と不倫をしてしまうほど恋に関しては軽い考えを持っていた。もしかすると女に対しての配慮も最初のうちは無かったのかもしれない。

しかし当時の威勢のようなものは女への情熱が盛り上がるほどになくなっていき、今では面影もどこへやら。女に対して何も言えない自分が歯がゆいに違いない。

 

"なにも言えないで過ぎてゆく君の影を見送るだけ わかっているから涙が落ちる 膨らむ想いを飲み込む辛さを"

女には本来隣にいるべき男がいるはずである。主人公も、自身が抱いている愛情が禁じられたものだと分かっている。何も言えないで涙が頬を伝うのみ。

 

"もっと早く出会っていれば何もかもが上手くいったのか 華やかに咲いて散るような瞬間を二人 求めている"

女が夫よりも先に自分と出会っていれば、こんな事にならなくて済んだのかもしれない。

しかし別れてしまうことは決定事項だ。何も言えないままの別れは主人公は勿論、女も納得しない。二人とも最後に何か盛り上がりが欲しい。そして綺麗に別れてしまいたい。

 

"目を閉じ強く感じている その心が側にあること"

そんな二人の考えは、お互いに手に取るように分かってしまう。別れる直前だから起こる現象なのか、それとも。

 

"なにも言えないで過ぎてゆく君の影を見送るだけ 思い上がりにも似たような気持ちが胸で暴れている

 二人のはかない行き先を変えてみようか 裸になって 寂しい街から連れ出して遠い国で君を抱きたい"

そんな思いが主人公の頭をよぎり、何もかも通じあっている今の自分達なら何だって出来そうだ、という思い上がりをしてしまう。

そして最後の男の願望は、

女と不倫を続けること。夫から彼女を奪い、どこか遠いところで駆け落ちすること。

 

果たしてこの願望が叶ったのか、それ以前に願望を女に伝えられたのかどうか。

個人の想像になるが、答えはNOだと思う。

「君を抱きたい」というフレーズから、願望は願望のままで終わってしまったという気がしてならない。

真偽は分からない。だが、そのどちらにしてもオールハッピーエンド、という終末を迎えないことは確かだ。二人の「春」はどのみち哀しさを含んだものになってしまう。不倫の末路を巧妙に描いた物語ということだ。

 

 

サウンド面と歌詞について長々と書いてきたが、これらが私がこの曲を「B'z史上最高峰」と評価してしまう所以だ。是非今1度、この曲の良さを噛み締めながら聴いて頂きたいと思います。